Creators' Talk

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THE NORTH FACEを知るクリエイター達へのインタビュー

Daisuke Oguchi

www.goldwin.co.jp/tnf

小口大介
1973年北海道出身。THE NORTH FACE札幌店スタッフ、同店の店長、原宿店店長を経て、THE NORTH FACE初のプレス担当に。現在、株式会社ゴールドウイン アウトドアスタイル事業本部プレスチーム・リーダーを務める。また、2010年4月、東京・神宮前にオープンしたコンセプト・ショップ「THE NORTH FACE STANDARD」のプロデュースを手がける。















interview

グラフィック・デザイン、音楽、デザインサイエンス、アートなど、あらゆるフィールドに渡ってTHE NORTH FACEと深く関わるクリエイターたちへのインタビューを続けてきた[Creators' Talk]。7回目を迎える今回は、そのネットワークの中核ともいうべきTHE NORTH FACEのプレス・リーダー、小口大介へインタビューを実施。プレスという業務の枠に捕われることなく、これまでも数多くのプロジェクトを手がけ、同時にさまざまな人に出会い、コミュニケーションを交わし、刺激を受けてきた彼。そんな彼が初めてプロデュースを手がけたショップが、先日遂にオープンした。「THE NORTH FACE STANDARD」という名のその店は、ブランドのメッセージや哲学を共有し、伝えるための場所なのだという……


コンセプト・ショップ「THE NORTH FACE STANDARD」(以下STANDARD)が4月末にオープンしましたが、こうしたショップの必要性を感じたきっかけは何だったのですか? また、このアイデアは小口さんの発案なのですか?


Daisuke Oguchi(以下DO):そうですね。昔から「いつかは自分でプロデュースできるショップをやりたい」と思っていたけれど、どんなショップをやるべきなのかというイメージはずっと漠然としていました。ところが、ここ数年でTHE NORTH FACE(以下TNF)というブランドが急成長を遂げ、客層や製品の幅が広がっていくにつれ、ブランドのコアな部分が伝わりづらくなっている気がしはじめて。ブランドにとってビジネスの拡大は重要なことだけれど、同時に、マスに向けて拡大している今だからこそ、ブランドの真のメッセージをしっかりと表現できるコンセプチュアルな店も必要だと考えはじめ、そうした店こそ自分のやるべきことだと思うようになったんです。


発案から実際のショップ・オープンに至るまでの経緯は?


DO:「TNFのコンセプトを明確に伝えられる店が必要なんじゃないか」という自分の考えを、社内の女性スタッフにちょくちょく話していたんです。そうしたら、彼女がその話をTNF事業部長である渡辺へ何気なく伝えていたらしくて。そして、昨年11月にTNF堀江店で開催した渋谷ゆりさんの写真展レセプションの時、渋谷さんと渡辺と自分で雑談をしていたら、渡辺が「原宿にいい物件を見つけたから新しい店を出そうかと。小さいけれどその4階は展示もできるスペースにしようと思っている」という話をはじめて、「小口がそういう店をやりたいようだから、任せようと思っているんだ」って。初めて聞いた話だったので驚いたけれど、後日「あれは酔った勢いの話ではないですよね?」と渡辺に改めて確認したら、「おまえがやりたいなら、やってみればいい」って。そこからオープンに向けて一気に動き始めました。


ショップ・コンセプトの方向性はどのように決めたのですか?


DO:プレスという仕事柄、いろいろなメディアの人と話す機会があって、多くの人が「TNFの製品は機能性が高いですね」と言ってくれる。けれど、具体的な機能については、アウトドア・メディア以外の、例えばファッションやカルチャー系のメディアの人たちにはあまり理解されていなかった。優秀な保温機能を持つ光電子や消臭抗菌機能のマキシフレッシュなど、TNFにはあらゆる機能を備えたテクノロジーがあり、そうした機能はアウトドアのシーンだけではなく都市生活においても実用的なんです。自分も昨年の冬、コートの中に光電子のダウンシャツを着て過ごしたら温かくて快適で、本当に素晴らしい機能であり製品だと改めて認識したほど。だからこそ、そうしたTNFの素晴らしいテクノロジーや機能の汎用性をアウトドア愛好家以外の人たちへも伝えていきたくて。そのためにはデザインという視点を重視する必要性を確信していたし、それこそが新しい店の方向性だと。つまり、「自然の素晴らしさ」というメッセージを根底に置きつつ、TNFのテクノロジーやブランド哲学をデザインという視点で表現していく。それがSTANDARDの方向性であり役割なんです。


インテリアやディスプレイも直営店とは異なる趣ですが、ショップのデザイン・コンセプトを教えてください。


DO:自分たちの根幹にはBuckminster Fullerの考え方があります。一昨年開催したTNF創設40周年記念エキシビションのテーマ「Do More With Less」はFullerの言葉で、STANDARDのデザイン・コンセプトも「最小の力で最大の効果を出す」という彼のその思想に沿っている。さらに「全てを新たに作り出すのではなく、既存の素材をうまく流用して生活をより良くする」という考えにも共感し、STANDARDでは高価な棚を作るよりも段ボールなどの身近な素材を多く取り入れています。


4階建てのショップですが、フロアごとにテーマや構成が異なるのですか?


DO:ショップ全体に関しては「Standard of Living Package」がテーマ。これもFullerの言葉で、自分の生活におけるスタンダードをパッケージ化するということ。アウター、シューズ、バッグといったように製品をカテゴリ別に設置している直営店に対し、STANDARDの場合はスタイリングをパッケージ化して提案している。1階ではシーズンごとに異なるテーマを設定する予定で、今は「TNFのStandard of Living Package」を表現しています。さらに2階では、1階で紹介したパッケージを掘り下げてコーディネートで提案。例えば、旅へ行く時や登山の時の「TNFのStandard of Living Package」のスタイルをコーディネートで紹介するといった具合です。そして3階は、アウトドア関連のスタンダードといえるグッズで構成した部屋のような感じ。レイン・ウェアや速乾性のある下着、シューズなど、アウトドアには欠かせないグッズと、あと、アウトドア・シーンにおける名品とされるアイテムも外部から仕入れて置いています。最上階の4階は、1階で設けたテーマをさらに追求してインスタレーション方式で展示するスペース。誰と何をやるといった今後の詳細は未定だけど、例えば「+81が考えるStandard of Living Package」を展示するといったことを、幅広いジャンルの人たちとやっていきたいと考えています。


以前PERTEXと合同で開催したエキシビションに続き、このSTANDARDもTRIPSTERがデザインを手がけています。具体的には何のデザインを担当したのでしょうか?


DO:基本的にはショップ・デザインをお願いしましたが、アイデア出しやコンセプト・メイキングも手伝ってもらいました。特に野村訓市くんとはいろいろなことを話し合ったし、意見も仰ぎました。自分には「こういうショップにしたい」という感覚的なイメージはあったけれど、店を作った経験も知識も無い。資料作成やプレゼンテーションの方法など、自分に足りない部分を訓市くんは教えてくれて、彼の熱意を受けて自分もさらにやる気になった。だから、彼は陰のプロデューサーというか、STANDARDの形成には欠かすことのできない人物だったんです。


TRIPSTERと仕事をするようになったきっかけを教えてください。


DO:TNF直営店用のBGMをプロデュースしてもらったのが最初のきっかけです。直営店が全国に拡大するにつれ、それぞれの店によってディスプレイや流す音楽、スタッフの接客などがバラバラになってしまい、そんなスタンスでブランドの哲学がお客さんへ伝わるのかと疑問に感じていました。そこで、まずは直営店共通のBGMを誰かにプロデュースしてもらおうという話から、プロデューサー候補として友人に紹介してもらったのがTRIPSTERの訓市くんだった。彼はあらゆる国を旅した経験があり、さらにsputnikというビーチ・ハウスを始動させてパーティを開催したりと、音楽やカルチャーとの繋がりも深かった。さらに、自分と同い歳で感覚も近いんじゃないかと、彼への依頼を決めました。実際一緒に仕事を始めると、1から10まで語らなくてもちょっとしたキーワードだけで通じ合えて、すぐに信頼関係を築くことができた。例えば、BGM制作のための札幌店視察の日程を調整した際、David Mancusoが札幌のFilmore Northに来るから、それに合わせて札幌へ行こうと彼にメールをしたら、すぐに「じゃあ、The Loftで遊べってことでしょ」と返事が来て。David Mancusoは1970年代からNYでThe Loftという伝説のパーティを続けている元祖DJのような人で、Filmore Northのサウンド・デザインも手がけている。「Mancuso」という名前に「The Loft」って返ってきたことで、「ああ、この人はやっぱり知っているな」って。結果的にプロデュースしてもらった音楽も、自分が知らない曲をたくさん教えてくれつつも、どの曲もTNFのスタイルにばっちり合っていた。そうした諸々の過程を経て、訓市くんを中心とするTRIPSTERへ寄せる信頼が固まっていった。その後担当してもらったプレス向けの展示会やPERTEXとの合同展でも、TNFの哲学やメッセージを理解したうえで、それをデザインでしっかりと表現してくれました。


そうした経緯からSTANDARDのデザインも依頼しようと?


DO:そう。自分がやるショップだからこそ、自分が最も一緒にやりたいと思う人と組みたかった。訓市くんをはじめとするTRIPSTERの面子は全員、旅や遊びなどのこれまでの多くの経験を活かしながら徹底して仕事に取り組んでいる。さらに、徹底的に遊ぶことも忘れていない。それって日本的感覚ではないというか。自分たちのやりたいことを隠さずに、素直に表現できるクリエイティヴ・チームだと思っています。


オンライン上のショップやギャラリーが増加している現在、STANDARDのような実在のスペースの必要性はどこにあると思いますか?


DO: どんなにテクノロジーやメディアが発展しても、自分たちが人間である以上は「現場」に勝るものは無いと思っている。現場にある空気感やコミュニケーションは、実際にそこへ行かなければ得ることができないものだから。例えば、好きなアーティストがいるとして、ネット上でも作品の閲覧や情報を得ることはできるかもしれない。けれど、その作家のエキシビションがあるならば、その場へ足を運ぶべきだと思う。作品に直接触れることで初めて得ることのできる感覚があるだろうし、そこで知り合える人もいる。もしかしたら作家本人にだって会えるかもしれない。山に登ればそこには二度と見ることのできない夕日や雲海に出会える。それは街でも山でも同じこと。そうした予期せぬ偶然が起きる現場感、それこそが素晴らしいと思うから。自分も社会に出てから今に至るまで全てを現場で教わっているし、学校や自分ひとりでは学び得れないことを現場では得ることができる。だから、そうした「現場」としての「実在のスペース」は絶対に必要なんだと思います。


その「現場感」という点で、STANDARDはどのような反応を得ていますか?


DO:オープン直後のGWは自分も店にちょくちょく顔を出していたけれど、いろいろな人が来てくれて面白かった。それに、来た人は結構長居してくれて。スタッフとおしゃべりしたり、店に置いてある写真集を「この写真、やばくない?」と見せ合ったり、かと思えば、3階でテントを見ながら「この部分のデザインがかっこいい」と話し込んだり。しっかりとデザインされた店を作ることで、そういうクリエイティヴなことが好きな人たちが集まって、そこからさらに広がっていく。そういう場所になりつつあると感じています。


STANDARDを通して発信したいメッセージを教えてください。


DO:さっきの話のとおり、アウトドア・ウェアの汎用性、その素晴らしさを伝えたい。例えば、ダウンベストやレイン・ウェアを小さく畳んでバッグに入れておけば、朝晩の寒暖差やゲリラ豪雨にも対応できる。アウトドア・ウェアの機能性は都市生活におけるそういったストレスを軽減してくれるし、ストレスが減ればいい仕事ができ、ライフスタイルがより良いものになる。そんなアウトドア・ウェアの新たな役割を提案していきたいですね。あと、STANDARDはどちらかと言えば都市生活者向けのショップだけど、だからこそ、都市で生活する人々へ対して「自然の素晴らしさ」を伝えたい。例えば、3階で提案しているアウトドア・スタイルに触れて「自然の中へ出かけてみようかな」という気持ちのきっかけになれば嬉しい。それに、実際にアウトドアへ出かけて自然の中に身を置くとストレスから解放されるし、街に戻ってからの生活もさらに良くなるはずだから。


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